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幻の最高裁判決!「曲率半径誤記事件」

幻の最高裁判決!「曲率半径誤記事件」③

上告受理申立理由第一点
最高裁判所の判例違反 (技術的範囲の認定)

 

 一 本件は、登録実用新案の技術的範囲の認定を争点とする訴訟事件であり、原判決の判断は、最高裁判所の昭和三九年八月四日付け判決(民集一八・七・一三一九)に違反している。
 右最高裁判所の判例は、登録実用新案の技術的範囲の認定に関し、『~出願者は、その登録請求範囲の項中往々考案の要旨でなく、単にこれと関連するに過ぎないような事項を記載することがあり、また逆に考案の要旨と目すべき事項の記載を遺脱することもあるのは経験則の教えるところであるから、実用新案の権利範囲を確定するにあたっては、「登録請求ノ範囲」の記載の文字のみに拘泥することなく、すべからく、考案の性質、目的または説明書および添付図面全般の記載をも勘案して、実質的に考案の要旨を認定すべきである。』としているにも拘らず、原判決は、「登録請求ノ範囲」の記載の文字のみに拘泥したばかりでなく、技術的範囲の認定とは何の関わりもない訂正無効審判の審決の確定という事実にも拘泥し、許すべからざる結論を導いているものである。本件は、いみじくも、右最高裁判所の判例に言われている、「~出願者は、その登録請求範囲の項中往々考案の要旨でなく、単にこれと関連するに過ぎないような事項を記載することがあり、また逆に考案の要旨と目すべき事項の記載を遺脱することもあるのは経験則の教えるところである。」に該当する事案なのである。
 右最高裁判所の判例に従って、本件考案の技術的範囲を認定するならば、原判決の結論とは逆の結論になることは明らかである。以下、その理由を述べる。

 

 二 本件は、図面の添付が必須とされている実用新案に関するから、図面を重要視すべきは当然であり、考案の詳細な説明も図面を参照しながらなされているのであるから、右最高裁判所判例が判示するように「登録請求ノ範囲」の記載の文字のみに拘泥することなく、考案の性質、目的または説明書および添付図面全般の記載をも勘案して、実質的に考案の要旨を認定したならば、「曲率の小さな」は「曲率半径の小さな」の意味であることは容易に判明し、本件考案の保護は「曲率半径の小さな」場合に及ぶとするのが当然である。

 

 三 さらに、本件の特殊事情について述べれば以下のとおりである。
 通常、出願の審査においては、請求の範囲は字義どおりに解釈され記載に不備があれば記載不備の拒絶理由が、また、公知技術との関係で広すぎれば公知技術を引用する拒絶理由が発せられて補正・減縮が促され、通常であれば、適宜、補正・減縮されて最終的に権利が付与されるということになる。ところが、本件は、本来あってはならないはずの極めて異例な事案であり、「曲率の小さな」は、実は、逆の「曲率半径の小さな」の意義と解釈されて登録査定になっているものである。このことは、乙第一九号証の拒絶査定不服審判請求書に、問題の補正事項に関して、「出願当初の明細書に添付の図面の記載に基づくものである。」と明記されているばかりでなく、本件考案を登録すべきものと認めた乙第二二号証の審決の「理由」の冒頭にも、「~その考案の要旨は、明細書と図面の記載からみて、実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものであると認める。」(傍線は代理人による。)とあることから明らかである。そして、このことは、「曲率」と「曲率半径」は、全く逆の概念でありながら、間違えられやすいということに起因しているのである。この事情は、訂正審判が何の問題もなく認容されたことからも明らかである。また、このことからも、本件において、「曲率の小さな」は「曲率半径の小さな」と読み替えなければ明細書と図面が全体的に整合したものにならないということが明らかなのである。別紙図面B等を持ち出してあれこれ言うのは、すべて、見え透いた「後知恵」によるものである。

 

 四 特許(実用新案登録)の出願がなされれば、特許庁は、就中、当該発明(考案)は課題を解決するものであるか否か、従来技術に対して新規性・進歩性があるか否か等を審査し、これらの要件が充たされていると認めるものに対してのみ、特許(実用新案登録)を付与するのである。特許(実用新案登録)の付与・剥脱は特許庁のみがなし得るのであるから、特許(実用新案登録)は、特許庁によって無効とされない限り「有効」と推定されることになる。従って、特許請求の範囲(実用新案登録請求の範囲)は、論理の許す限り、その発明(考案)が特許(実用新案登録)適格を有しており、且つ、無効の原因がないように解釈すべきであるということになるのである。

 

 五 本件考案の実用新案登録請求の範囲の「曲率の小さな」を字義どおり解釈した場合には、そのような考案は、実は特許庁によって審査もされていないのであるから、あり得べからざる不合理な結果を招来する。すなわち、明白な要旨変更の補正となるばかりでなく、対応する図面が添付されていないことになり、出願人が設定した課題を解決することができないものであり、あまつさえ、出願人は図示して説明した唯一の実施例について権利を放棄した、ということになってしまうのである。
 右のような不合理な結果を招来してまで、本件において、考案の技術的範囲を、実用新案登録請求の範囲の字義どおりに解釈しなければならない理由はあり得ない。

 

 

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