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オフィスビル賃貸の「原状回復義務・保証金・更新料」

オフィスビル賃貸の「原状回復義務・保証金・更新料」③

3.更新料と保証金の返還請求

 

 当初は、この原状回復費用の不当利得返還請求のみを考えていました。
 しかし、2年毎、全7回の更新の度に、「更新料」として1ヶ月分賃料を支払わされてきたことについても、不合理性を感じていました。まして、最終の「更新料」は、退去の僅か半年程前に支払っていたのです。
 そして、保証金の1割も、理由の如何を問わず、当然に「償却」されるものとされていたことも上記したとおりです。
 一体何のためにこれだけの金銭を取られるのか?一体何の対価なのか?どう考えても納得がいきません。
 そこで、“ダメもと”で、これらについても返還請求をし、少なくとも問題提起をしたい、この不条理について世に問いたい、と考えました。冒頭の「更新料訴訟」も、泣き寝入りせず敢えて問題提起を行った人々の行動の積重ねによって、社会の問題意識を喚起し、潮流を変えつつあるのですから。

 

 問題は法律構成でした。契約条項にあるから仕方なく、ではありますが、一応任意に支払ってしまったものを、どのように構成すれば不当利得と言えるのか。

 

 更新料無効判決や、これと並んで出されていた敷引特約(敷金の一部を当然没収する特約)無効判決は、消費者契約法10条を根拠とするものでした。

 この消費者契約法における「消費者」とは、「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。」(同法2条1項)と定義されていますから、本件の場合、文言上、同法にいう「消費者契約」には該当しないことになります。
 しかし、検討を重ねた結果、以下の論理構成で行けるのではないかと考えました。

 

消費者契約法は、「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ」(同法1条)て制定され、公平の理念、武器対等の原則に基づき、契約当事者間の実質的公平を実現することを企図して制定されたものである。
従って、同法の解釈・適用は、「構造的な情報・交渉力の格差」を問題とする1条の趣旨に照らして行われるべきであり、「事業者」と「消費者」の別、「事業として」又は「事業のために」に該当するか否かについても、構造的な「情報・交渉力の格差」、そしてこの格差を生むこととなる「反復継続性」に着目して判断すべきである。
本件賃貸借契約を締結した原告は、「個人」事業主である。そして、確かに、文言上、「事業のために」本件賃貸借契約を締結した場合に該当するが、事業用物件の賃貸借契約を締結するについては、原・被告間に、「構造的な情報・交渉力の格差」があり、この格差を生む原因となる「反復継続性」は、賃貸ビルの所有者たる被告の側にのみ存在した。すなわち、個人であってもアパート経営を行っているような場合は「反復継続性」が認められ、「事業者」に当たるとされている。さらに、本件賃貸借契約の締結・更新等は、常に、被告が仲介を依頼していた不動産業者を介して行われており、この業者はまさに、不動産賃貸を業として「反復継続して」行うプロであり、建物賃貸借における情報の質量と交渉力の構造的格差は歴然たるものがあった。
よって、法の趣旨・目的に照らせば、本件賃貸借契約についても、消費者契約法が類推適用されるべきであり、そのような解釈・運用の姿勢こそ、「国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与する」(1条)との目的に資するものというべきである。
賃借物件の「使用」に対し「賃料」を支払っていること、「正当の事由」がなければ更新拒絶はできず(借地借家法28条)、法定更新であれば更新料を支払う必要はないことを考えると、更新料に「対価性」を見出すことはできない。しかし、近代的取引は、所望の財物や役務に対し、相当な対価を支払うことによって成立するものであり、「対価性」をその本質とする。従って、「対価性」を欠く「更新料」なるものの授受は、近代的取引の本質に反し、如何にもっともらしい名称を付そうとも、正当化され得ない。
民法の規定上も、金銭所有権の移転は、何らかの「対価性」を伴うのが通常であって(民法555条、601条、623条、632条)、これがないときは、まさに、一種の「贈与」というべきである。賃貸人・賃借人間の立場の強弱、構造的な情報・交渉力の格差と不公平性故に、事実上、「贈与の強制」が行われてきたのが実態である。
よって、更新料特約は、「消費者の利益を一方的に害するもの」として無効とされるべきである。
仮に、消費者契約法の類推適用が認められないとしても、結論は変わらない。

 

 すなわち、同法10条後半の要件は、「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して」消費者の利益を一方的に害する条項は無効とする、というものである。

 

 「民法第1条第2項に規定する基本原則」とは、「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。」とする、「信義誠実の原則(信義則)」である。
 この信義則は、民法秩序全体を貫く原則であり、契約の解釈基準としても用いられ、これに反すると認められる場合、民法上は、個別的に権利の行使が制限されることになる。
 従って、消費者契約法10条後半の要件を充たし、「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して」消費者の利益を一方的に害する条項については、民法上も、権利主張が認められないこととなる(「逐条解説消費者契約法」)。

 

 また、保証金の「償却」特約についても、同様の論理に基づき、以下の主張を加えました。

 

 「保証金」とは、「一般的には、何らかの事柄や行為を担保するために、交付される金銭のこと」(有斐閣「法律学用語辞典」)である。不動産の世界では、「敷金」と同義であり、「敷金」とは、「不動産、特に家屋の賃貸借において、賃借人が賃料その他の債務を担保するためあらかじめ賃貸人に交付する金銭。その法的性質は、近時の判例、通説によれば、賃貸借契約終了の際、賃借人に賃料その他の債務の不履行があればこれを控除した残額を返還し、債務不履行がなければ全額を返還するという停止条件付返還債務を伴う金銭所有権の移転であるとされる。」

 

 そして、訴状を以下のように締め括りました。「不動産の賃貸借契約、賃借人の原状回復義務、保証金及び更新料の法的性質を再検討し、実質的公平の理念、信義誠実の原則、合理的意思解釈の観点に照らした『賃貸借契約のあるべき姿』について判断を求めるべく、本訴を提起した次第である。」

 

 果たして、判決は・・・

 

 

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