お電話でのお問い合わせ

03-6268-8121

オフィスビル賃貸の「原状回復義務・保証金・更新料」

オフィスビル賃貸の「原状回復義務・保証金・更新料」④

4.判決:一部勝訴

 被告は、居住用物件と事業用物件とでは事情が異なること、そして、当方が弁護士であることをひたすら強調し、本件を、“法律的知識と交渉力に長けた弁護士 対 無知で無力な一個人”の構図として描こうとしました。そして、反論らしい反論と言えば、この「原告は弁護士である」の一点に尽き、法律論は殆ど何も出てこず、議論は深まらないまま結審。

 判決も、ほぼ予想どおりでした。
 通常損耗の原状回復費用については、上記最高裁判例を引用し、不当利得として被告の返還義務を肯定(一部勝訴)、更新料・保証金については否定。理由は、「賃料、更新料・・・について被告と交渉し、減額してきたことが認められること、原告が弁護士として30年以上にわたり活動していることからすれば、実質的にみても、情報の質及び量並びに交渉力に格差があるということはでき」ないとのことで、僅か数行で終わりでした。
 要するに、原状回復費用については最高裁判例を引用し、これに依拠すればよいためリスクはありませんが、消費者契約法の類推適用等ということを正面から議論することは、とてもリスクが高くてできないということであろうと推察されます。非常に形式的、表面的な議論に終始したもので、何の熱意も感じられませんでした。

5.控訴審へ

 しかし、これで終わりにしてしまっては、敢えて問題提起に踏み切った意味がありません。少なくとも、「何故認められないのか?」という素朴な疑問に、正面から、納得いくように答えてもらいたい、賃貸借の本質に迫るような議論をしてもらいたい。

 それこそが本訴提起に至った動機であること、そして、賃貸人対賃借人という単純な二当事者対立構造として捉えるのみでは、賃貸借契約というものの本質を明らかにすることはできず、[賃貸人+不動産業者]という一体的事業者との間の「構造的な情報・交渉力の格差」こそが問題の核心であることを主張し、「高等裁判所」ならば、もう少し本質に迫る議論が期待できるのではないかと微かな望みを抱き、控訴しました。

 しかし、第1回期日で結審。高裁には、全くやる気は感じられませんでした。
 判決も、「『被告』を『,不動産業者と一体化した被控訴人』に改める。」等の形式的でおざなりな「改める」文で終わりでした。
 虚しさだけが残りました。もしメディアの注目があったなら、もう少し真剣に取上げたのでしょうが。しかし、これが、残念ながら、この国の高等裁判所の姿です。一体どこが「高等」なのか聞きたいくらいです。(当初は、最高裁まで行くことも予定していましたが、昨今の、一枚の「不受理決定」で済ます最高裁実務を考えると時間と費用が無駄になるだけであることは見え見えですから、残念ながら、高裁で打ち止めとしました。)

 原状回復費用の返還請求を認める判断が維持されたことには安堵しました。
 賃借物件の損耗の発生は、賃貸借契約というものの本質上当然に予定されているものであり、この賃貸借契約の本質は、居住用物件であると事業用物件であると何ら変わらない、賃借人は通常損耗についての原状回復義務まで当然に負うものではない、との主張が通ったことは、せめてもの救いでした。(レンタカーを借りて返すときに、タイヤが擦り減ったから新品にして返せといわれたら、誰でも怒るでしょう。こんな当たり前のことが不動産賃貸借だと逆に、内装まで一新して返すのが当然という発想になるとは、珍現象というほかありません。)

 

 

 

<<戻る

進む>>

TOPに戻る