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民訴法119条にいう「告知」とは?

民訴法119条にいう「告知」とは?➄

特許庁審判部は、「判決の確定の日から1週間以内」の要件を充たさないことを理由として、訂正請求申立を却下しました。
 その「手続却下の決定」には、「行政不服審査法に基づく教示」として、「・・・行政不服審査法に基づく審査請求をすることができます。」と記載され、また、「行政事件訴訟法に基づく教示」として、「この処分に対する訴えは、この処分についての審査請求に対する裁決の送達を受けた日から起算して6箇月以内に、・・・提起することができます。この処分に対する訴えは、この処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができません。」と記載されていました。

 

 そこで、法定の手続に従い、まずは特許庁長官に対する審査請求を行いました。
 特許庁長官に、このような難解な法律問題についての判断が期待できるとは到底思えませんでしたが、致し方ありません。
 そして、案の定、実質的な論拠を示すことなく、審判長の判断を維持する「裁決」を受けました。
 裁決には、「取消訴訟の提起に関する説明書」が同封されており、「裁決の取消訴訟についての教示」として、「この裁決に不服がある場合は、裁決の送達を受けた日から6月以内に、東京地方裁判所・・・に裁決取消の訴えを提起することができます。」と記されていました。

 

 そこで、この丁寧な「教示」に従い、裁決の取消しを求める行政訴訟を提起しました。

 

 ところが、数日後、書記官から電話があり、裁決取消しの訴えは、「裁決固有の瑕疵」がある場合でなければ提起できず、本件はこれに当たらないから取下げて頂きたい、替わりに却下処分の取消訴訟を提起すべきである、というのです。

 

 これには強い違和感を覚えて行政事件訴訟について調べたところ、確かに、現行の行政事件訴訟法においては、「原処分主義」が採用されるに至り、同法10条2項は、「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」と規定し、これは、「裁決固有の瑕疵」のみを主張すべきことを定めたものであることが分かりました。

 

 しかし、このような事実を知った後も、違和感は払拭されず、上記のような指示をされることには納得が行きませんでした。
 そもそも、上記のような制度設計が行われたのは、行政事件訴訟法の前身たる行政事件訴訟特例法が、処分取消しの訴えと裁決取消しの訴えとを特に区別せず、後者が前者に当然包摂されるものと位置付けていたため、両者がともに提起され、いずれの訴訟においても実体的判断についての瑕疵が主張・審理されるような事態が少なからず生じ、裁判上の扱いも区々で、混乱が生じていたことに起因します。

 

 実際、民事訴訟の場合を考えても、当然ながら、第一審に対する不服を第二審に申立て、第二審に対する不服を第三審に申立てます。特許庁における拒絶査定不服審判や無効審判とそれらに対する取消訴訟も、(審査官による査定→)審判部による審決→審決取消請求訴訟と、段階的手続を経ます。
 そして何より、こちらとしては、「この裁決に不服がある場合は、・・・裁決取消の訴えを提起することができます。」という「教示」に素直に従ったまでです。
 法の定めに従い、特許庁審判長による決定→特許庁長官による裁決という段階的手続を経た上で、これに対する不服を申立てて出訴するのであるから、「審決」の場合と同様、この直前の手続たる「裁決」を取消すとの判決を求めようと考えるのが、自然な道理です。

 

 しかし、現実には、「この裁決に不服があっても、裁決取消しの訴えを提起することはできない」のです。

 

 にも拘らず、「この裁決に不服がある場合は、裁決取消の訴えを提起することができます」としているのですから、「全く反対の教示」が行われているとすら言えます。
 このような「教示」によっては、一度痛い目に遭った者や行政事件を専門に扱う一部の者を除き、「裁決を不服として」訴訟提起するに当たり、「処分取消しの訴え」を提起しよう等とは通常考えないと思います。
 事実、行訴法についての専門書には、そのような例が数多く見受けられることが示唆されていました。

 

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