特許英語における define の意味。
特許英語における define の意味。
「クレームは発明の定義である。」と書いた本が、結構見られます(田辺徹著「英文特許入門」、発明協会発行「外国特許出願の知識と実務」等)。
しかし、「発明の定義」は、特許法で既にされているのですから、「クレーム」で「発明の定義」をしても始まりません。日々、「クレーム」を書いていますが、「発明の定義」を書いている積もりは、ありません。
こういうことを書いた本があるから、英文明細書の結びに「Other modifications may be made to the apparatus described above without departing from the scope of invention as defined in the following claims.」とあったりすると、「以下の特許請求の範囲で定義された発明の範囲から逸脱することなく、上述の装置に他の変更をなし得るものである。」というような和訳が現われるのでしょう。
ここで問題は、英語のdefineの意味です。これを安易に「定義する」と訳するから、こういうことになるのです。
「ロングマン現代アメリカ英語辞典」に登場願うと、defineについて、見事な説明がなされています。すなわち、defineとは、「to describe something correctly and thoroughly, and to say what standards, limits, qualities etc. it has that makes it different from other things」とあります。和訳すれば、「或るものを正確且つ十分に記述すること、他のものとそれを区別せしめる、如何なる基準、限定、性状等をそれが有しているかを述べること」です。
ここで、「或るもの」を「発明」に置き換えると、「発明を正確且つ十分に記述すること、他の発明とその発明を区別せしめる、如何なる基準、限定、性状等をその発明が有しているかを述べること」となります。まさに、弁理士は、日々、このようなクレームの文章作成をしているのであり、これこそ、「クレーム」の意義です。クレームで、「発明の定義」はしていません。
こういう意味のdefineを、日本語で簡潔に言い表わすのは困難ですが、「発明」の場合は思い切って意訳し、「構成要件を記載すること」が、ぴったりです。
要するに、クレームには「発明の構成要件」を記載するのであり、「特許侵害」の判断基準も、或るものが、この「発明の構成要件」を充足するか否かの問題なのです。
結局、冒頭の「クレームは発明の定義である。」は、「クレームは発明の構成要件である。」と言い換えると、すっきりします。
なお、発明の実施形態を説明する場面で、defineは「to show the edge or shape of something clearly」ということで、日本語には、「画定する」という、ぴったりの用語があります。
(2008・5・30付記:英文明細書の最後に出てくる“the scope of the invention as defined by the appended claims”をどう訳すかとなると、「構成要件を記載した・・・」ではしっくり来ません。そこで、特許法70条1項に「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲に基づいて定めなければならない。」とあることを思い出し、「添付のクレームで定められる本発明の範囲」と訳するのが最適であるという結論になりました。)