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6.従属請求項における助詞は「が」であるべき。

6.従属請求項における助詞は「が」であるべき。

 クレームに従属項というものが書かれるようになってから既に20年近くがたっているはずです。従属項は、独立項に既に記載されている要件について、さらに具体的に限定を加えるものです。従って、「前記A~である、請求項1の~装置。」となるのが通常です。ところが、これを、「前記A~である、請求項1の~装置。」と書く人が、結構いるのです。このような文章に接するたびに、違和感を感じ、ここで用いる助詞は「が」であるべきなのに、こういう文章を書く人は、日本語が分かっていないと思っていましたが、さて、その理由は?となるとうまく説明できませんでした。

 

 「日本語練習帳」(大野晋著・岩波新書)という面白い本が、この疑問に答えてくれました。著者は、本書の中で、「は」と「が」とを「主語-述語」の形だけで見てもその差は分からないと記した上で、「は」と「が」の違いについて、おおよそ次のように述べています。・・「は」の文章では、主語+「は」の部分で題目(問題)を提示し、文末にその「答え」が来る構造になっている。例えば、「山田君は、ビデオにうずもれて暮らしている。」という文章では、「山田君は」の部分が文章の題目であり、「暮らしている」という結びの一句がそれに対する「答え」になっている。

 

 一方、「が」は、直前の名詞と次にくる名詞とをくっつけて、ひとかたまりの名詞相当の句の型を作る「接着剤」のような役割がある。例えば、「風が静かな日は廊下で日向ぼっこをする。」という文章では、「風が静かな日」でひとまとまりの名詞相当の句を形成している。・・・

 

 上記の従属請求項の例で見てみると、「が」の文章では、「前記Aが~である」までがひとかたまりの観念(形容詞句)を形成しており、それが後の「請求項1の~装置。」にかかる構造になっています。従って、この文章は日本語としてしっくり来るのです。しかし、「は」の文章はそのような構造にはなりません。「前記Aは~である。」というひとつの文章が独立して成立しているだけであり、その部分は後部の「請求項1の~装置。」とはつながらないため、違和感があるのです。

 

 本書を読むと、従属項の中で限定する主語を表す助詞は「が」を使用すべきであり、「は」は、日本語として不自然であることが納得できます。

 

 (2003・6・18付記:養老孟司先生が、(新潮新書)「バカの壁」の中で、「は」と「が」の違いについて興味深いことを書いています。
 「昔々、おじいさんとおばあさんがおりました。おじいさんは山へ柴刈りに・・・」という、誰でも知っている一節の「おじいさんとおばあさんが」の「が」と「おじいさんは」の「は」の違いについて、これは、まさに、定冠詞、不定冠詞の機能をしている、というのです。
 さすが、養老先生、日本語の「が」と「は」には、定冠詞、不定冠詞の機能があると指摘されました。「日本語練習帳」の大野先生も、これには気が付かなかったようです。)

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