1.特許請求の範囲に「程度概念」を書くな!
1.特許請求の範囲に「程度概念」を書くな!
第1は、特許請求の範囲に「程度概念」を書くなという、実に基本的なことです。「程度概念」とは、大きい、小さい、長い、短い、重い、軽い、強い、弱い等の用語のことです。
アメリカに特許出願した明細書のクレームにこのような表現があれば、記載不明瞭としてobjectionがかかることは必定ですが、日本では、弁理 士にも審査官にも、このような表現に対する抵抗がなく、すいすいと通してしまうのが現状のようです。
我が国では、このような基本的問題に対する認識が、もともと希薄なのであろうとおもわれます。
しかし、これでは困るのです。「均等論て何ですか?」の項で書いたとおり、特許法と刑法は合い通じるものがあり、特許が1つ成立するということは、これは自分の独占物だから勝手にやったら処罰するという規定が1つできるようなものですから、その都度、「刑法~条」が生まれているに等しいのです。そして、刑法で、「背の高い者は処罰する」とか「体重の重い者は処罰する」とかあったら法の適用に困ってしまうように、特許請求の範囲に「~が大きい~」とか「~が小さい」とか書かれていては困るのです。
できるだけ権利範囲を広く取るため、特許請求の範囲が抽象的に書かれるのは止むを得ません。それが、弁理士の腕の見せ所でもあります。しかし、特許侵害で攻めようとする相手の物件は、常に具体的な存在です。例えば、特許請求の範囲に「長い~」とあったとしても、世の中に存在しているのは、例えば、3mmという具体的長さをもったものです。しかし、3mmがこの「長い」の要件を充足していることが証明できるでしょうか?できるはずがありません。何故なら、3mmは1mmよりは長いが5mmよりは短いということを考えれば、3mm自体は、長いとも短いともいえないことが明らかであるからです。こういう「程度概念」を特許請求の範囲に平気で書く人は、特許侵害の立証責任が、100%、特許権者にあることの認識が足りないのではないでしょうか。
1つ具体例を挙げるとすれば、現に訴訟になった特公平1-12966号の「回転体固定具」というのがあります。この場合は、請求項1の中に、「極小なすきま」、「僅かに傾斜状態」、「(剛性を)比較的低く設定」と、3つもの程度概念があります。
こんな明細書で侵害訴訟が提起されたら、裁判所が発明の構成要件を理解することさえ困難で、まして、侵害の立証は困難を極めると覚悟すべきでしょう。
そして、現実に、裁判所の結論は、「侵害の立証なし」ということでした。
このような明細書では、たとえ特許を取っても、いざというとき侵害の立証ができない「ペーパーパテント」で終わる危険を抱え込んでいると覚悟すべきでしょう。