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「相当な対価」はどのように算出されるか。

「相当な対価」はどのように算出されるか。

 近年の裁判例によると、「相当な対価」は、以下のような計算式によって算出されることが、ほぼ確立されたようです。

 

 超過売上げ×仮想実施料率×発明の寄与率×発明者寄与率(1-会社の寄与率)×共同発明者間寄与率

 

 (1)超過売上げ
 「超過売上げ」とは、非常に分かりにくい言葉ですが、特許権によって他社への禁止効果が得られたことにより、通常実施権による売上額(特許権がなかった場合の売上額)を上回ったと見られる売上額、ということです。
 近時、法定通常実施権による自己実施分を超えた実施分についての超過利益(超過売上げを得たことによる利益)については「50~60%の減額を原則とする」とする一方で、この相当対価を求めるための超過売上率については40~50%と認定する裁判例が出て新たな議論を呼んでいるようですが、これについては根拠が不明である等強い批判も起きているようであり、過去の例では20%等低く見積もった例もあるので、30~50%の範囲で予測し、低い方を基準に考えるのが現実的と思われます。

 

 (2)仮想実施料率
 利益率が高い製品の場合、利益率を基準に考えたいところですが、やはり、仮想実施料率が採用されるのが大勢のようです。
 「仮想実施料率」とは、すなわち、「超過売上」分を他社が売り上げていたとすれば、他社はその売上に応じてライセンス料を支払っているはずであると考え、超過売上を基準にした仮想のライセンス料を、その特許により得られた利益と見るということです(現実には、発明協会から『実施料率―技術契約のためのデータブック』という書籍が出されていますので、これを参考にすることができます)。
 もっとも、特許法35条5項には、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」と規定されていますので、現実の利益率が算出できる場合には、それによるのが本来ではないでしょうか。
 そして、当事者がどのような主張をしようと本来自由ですし、当初の請求額はできる限り大きく主張しておいた方がいいと言えますので、具体的数値を基に利益率を基準として請求額を算定し、主張した上で、後は裁判官の判断に委ねる、ということは可能ですし、それが現実的な選択と思われます。

 

 (3)発明の寄与率
 1つの製品についても、いくつもの発明が寄与しており、それによって初めて製品として成立し、売上げにつながっている、という場合も多いようです。そのような場合、この製品の売上げの何%くらいがその発明によるものなのかを評価する必要があります。

 

 (4)発明者寄与率
 発明をするに当たっては、研究開発のためのリソースの提供等、会社側の寄与があったことは明らかです。それを除いた分が、「発明者寄与率」となります。
 これについては、職務発明訴訟のリーディングケースとなった青色LED訴訟で「5%」という数字が出されていますので、これを基準ラインと考えるのが現実的と思われます。
 なお、平成25年1月に、発明者寄与を「1%」とする知財高裁判決が出されましたが、これは、医薬品の発明に関する事案で、有効成分合成後の事情は専ら使用者の貢献によるものであり、巨額な売上高を獲得するに当たって使用者側が特に大きな貢献をしていることを重視すべき、とされたものです。
 従って、この数字も、具体的諸事情によって変動し得るものですし、自らの貢献度が高いことを示す具体的証拠をどれだけ積み上げられるかが鍵となってきます。

 

 (5)発明者間寄与率
 共同発明者がいる場合には、それぞれの寄与率が問題となります。従って、予め数値化し明記しておくのが安全です。
 もっとも、たとえ明記されていたとしても、いざ訴訟となると、会社側は、これに反する事実を主張してくることもあり、ひどい場合には、「寄与率ゼロ」であるとか、「そもそも進歩性欠如により無効である」等と主張してくることもありますので、その点は覚悟が必要です。

 

 なお、将来発生し得る分については、多くの例では控えめに見積もられることが多かったようですが、近年は同等、又は事情によっては高めに見積もる例もあるようです。

 

 また、登録前の段階についても、補償金請求権に絡めて、或いは、事実上の排他力があるという理由で、使用者が受けるべき利益に算入されるというのが近時の裁判例のようです。
 但し、その評価については、登録後の売上げの1/2或いは1/10と低く見積もる例もある他、算入の割合を変えない事例もあるようで、算出困難です。

 

 さらに、「対価」の算定には、日本国内のみでなく、当該発明によって外国から得られる利益をも含むということが、日立事件の控訴審判決により明らかになりました。これにより、一審で認定された対価の額が、控訴審では約4倍に跳ね上がりました。

 

 上記すべての項目は、「仮想」「推測」であって、客観的な根拠に基づき算出される客観的な数値ではあり得ません。すべて、判断者の理由付けひとつで如何様にも「評価」できるもの、すなわち、「裁判官の匙加減」ひとつで如何様にも変動するものであって、極めて予測困難であるという現実を認識しておく必要があります。

 

 なお、発明者の側には、企業の売上に関する正確な数値は把握できないのが通常ですから、訴訟に当たっては、大まかな推定数字を主張すればよく、反証は企業側の責任となるので、この点について心配する必要はありません。

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