ANTHROPOLOGIE(アンソロポロジー)事件
ANTHROPOLOGIE(アンソロポロジー)事件④
数ヶ月後、事件は意外な展開を見せました。
特許庁審判官から電話があり、「本件商標は権利放棄による抹消処分となり、権利が消滅したため、本請求を取下げられたい。」とのことでした。
B社は、何らの答弁もせず、いわば白旗を掲げて敵前逃亡したのです。
これにより、確かに、A社が商標登録を受けることについては障害がなくなり、一件落着のように見えました。
しかし!!
「取下げ」により終結してしまうと、審判費用が、正当な権利者たるA社の負担に帰することになってしまいます。
本件商標は多数の類を指定していたため、合計31万円もの印紙代がかかっていました。
そして、B社は、まさに、この印紙代等を免れるために、上記のような方策に出たことは明らかでした。現に、不使用取消審判の結果、13万8千円を負担させられた事実が過去に存在したのです。
同じ轍を踏まないよう、「権利放棄」という手段に思い至り、無効審判請求を「空振り」に終わらせることによって、印紙代を免れようとの意図で、今回の行動に出たことが明らかに見て取れるものでした。
B社は、恐らく“専門家”に相談し、「権利放棄してしまえば、係争の対象物自体がなくなるから、請求は成り立たなくなり、費用負担を免れることができる」との“悪知恵”を授けられたのでしょう。
しかし、このような「とんずら」を許すことは、どう考えても公平の理念に反します。
そこで、然るべく審決を下して頂きたい旨の「上申書」を提出しました。
確かに、登録が抹消されたことにより、民事訴訟でいえば「訴訟物」がなくなり、もはやその無効審判を請求することはできないようにも思われます。
しかし、商標法46条2項によれば、無効の審判は、「商標権の消滅後においても、請求することができる」とされています。無効の効果が遡って生じることから、権利の消滅後であっても、無効を宣言する必要のある場合が現実に存在するからです。
これを根拠に、自ら権利放棄したことは、事実上「請求の認諾」をしたことを意味すること、その目的は上記のように費用負担を免れようとするものであること、不正な行為に関わる無効審判請求事件は、問題の商標登録が「消滅」したことのみをもって「解決」とされるべき性質ものでなく、公的に記録されるべきであること等を主張しました。
これで、あとは無効審決を待つのみ、と思われました・・・