お電話でのお問い合わせ

03-6268-8121

オフィスビル賃貸の「原状回復義務・保証金・更新料」

オフィスビル賃貸の「原状回復義務・保証金・更新料」⓵

 一昨年(平成21年)夏、関西において、更新料特約は有効か?を巡る判決が相次ぎ、これを無効とする判決も複数出されたことから、「更新料訴訟」の話題が一般紙にも取上げられました。また、それに伴い、原状回復義務の内容や敷金を巡るトラブルについても、特集記事が組まれる等、不動産賃貸借を巡る問題が注目を集めました。

 

 これらは、アパート・マンション、すなわち、居住用物件の賃貸借契約を前提としたものです。市民の生活に密着した問題であり、自らの懐に直接関わる事柄であるため、トラブルになるケースも、訴訟にまで踏み切るケースも多く、また、世間の注目も集めやすいわけです。

 

 これに対し、事業用物件、すなわち、オフィスビルの賃貸借については、少なくとも潜在的には同様の問題が当然に存在するはずであるのに、それらが正面から取上げられ議論されるのを耳にしたことはありません。
 しかし、一昨年夏、上記のように更新料訴訟が盛り上がりを見せていた頃、このことが、まさに、自分自身の問題として浮上して来ました。

 

1.事実経過

 

 当所は、平成21年7月、事務所を移転しました。移転前のビルには、平成7年1月に入居し、オーナーとは、特に問題はなく、良好な関係にありました。

 

 しかし、いざ解約となったとき、賃貸借契約書に規定されている「原状回復」義務の解釈を巡って、争いが生じました。すなわち、その規定によれば、「乙は、本契約が終了するときは、賃貸借終了日迄に自己の負担において引き渡し時の原状に復して本物件を甲に返還しなければならない。」と規定されていました。
 当方としては、本件貸室を使用する対価として、毎月「賃料」を支払ってきていること、加えて、賃貸借契約によれば、保証金の1割(約30万円)が「償却」(すなわち無条件に没収)されるものとされていること、そして、退去の僅か半年程前に更新料として1か月分賃料を支払っていることを併せ考えれば、通常損耗は「原状回復」義務の内容に含まれないはずである旨主張しました。
 また、資源・環境保護の観点からも、まだ使用可能なものはそのまま残して使用すべきであり、徒に、廃棄物を大量に排出するような行為は今や許されないこと、まして、貸室内に設置した会議室は遮音性の高いものであり、このような会議室を必要とするテナントもあり得るから、新賃借人が使用を希望する場合にはそのまま譲りたい旨も伝えました。
 オーナーは、この時点では、この主張の合理性、そして貸室全体の状態が良好であることを認めていました。そして、新賃借人が会議室を必要とする場合にはこれをそのまま使用し、不要となればこれを撤去する、という極めて合理的な方向で一応の合意に達していました。

 

 ところが、その後、オーナーは、仲介を委託している不動産業者の担当者A氏を伴って話合いの席に現れるようになりました。
 そして、こちらが、賃借人の原状回復義務に通常損耗は含まれないとした最高裁判例があることを主張すると、A氏は、居住用物件と事業用物件は別であり、オフィスビルにおいては、通常損耗の回復まで含まれるとした判例があること、賃借人には、あくまでも、通常損耗の回復をも含め、内装を一新する義務があること、それが「“業界の常識”である」ことを強硬に主張し、オーナーも同意見である旨述べるようになってしまいました。

 

 両者の主張は平行線を辿りました。
 しかし、我々としては、高額な保証金を人質に取られおり、その主張を貫けば、通常損耗の回復費用を差引かれて終わるだけです。従って、「被害」を最小限に抑えるためには、任意に履行する他ないとの結論に至りました。というのも、A氏らは、同義務を履行するに当たっては、従来、設備管理や清掃等を委託している管理会社(B社)に工事を依頼することになっているから、それに従ってもらいたいと要求してきたのです。
 そこで、B社に見積もりを依頼したところ、総額150万円との金額を提示してきました。

 

 しかし、我々は、競争原理が働かない「御用業者」であれば、市場の基準と乖離している可能性が高いと考えました。
 事実、当方は、B社が示した見積内訳書を見て、特別損耗に当たる会議室とエアコンの撤去のみの工事等、個別工事の委託も打診しましたが、B社は、「内装全てを一新する全工事込みの依頼しか受けられない」として、個別の工事は拒否したのです。
 仕事の依頼は喉から手が出るほど欲しいであろうこの厳しい経済情勢下において、何らかの「しがらみ」がなければとり得ない非合理的判断、且つ、「顧客」に対する態度としてはおよそ考えられない対応でした。
 そこで、我々は、他のいくつかの同種業者にも見積もりを依頼したところ、当然ながら、顧客の要請に応じて個別工事の見積もりも提示し、その金額は、B社の見積りより遥かにリーズナブルなものでした。

 

 このようなことから、我々は、已む無く、C社に工事を依頼し、会議室設備とエアコンの撤去のみならず、天井・壁・床の貼替え、内部全般のクリーニングを依頼しました。さらに、我々は、蛍光灯は有害廃棄物となるのであるから、まだ使用可能なものを取替える必要性はない旨主張しましたが、オーナーらは、「全てを新しくしなければならない」の一点張りで、妥協の余地はなく、結局、蛍光灯に至るまで全て一新する他ありませんでした。
 しかし、我々が選択したC社は、結局、総額95万円弱で全工事を完了させ、その工事内容は、オーナーも満足させるものでした。

 

進む>>

TOPに戻る