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ANTHROPOLOGIE(アンソロポロジー)事件

ANTHROPOLOGIE(アンソロポロジー)事件⑥

 審決に対する反論
(週知性について)  

 

  1. 夥しい数の関連資料を取捨選択することなく提出し、数量で圧倒するというような、質の低い立証活動を行うことを避け、真に証拠力のあるものを厳選し、迅速・適正な審理の実現に寄与したいと考えたためであり、審判官の負担も考慮した上での、合理的取捨選択の結果である。しかるに審決は、証拠の数量のみに着目した認定を行っており、その内容については何ら言及せず、検討を行った様子もない。証拠は、日本においても周知な新聞・雑誌の記事であり、その内容も商標の周知性を強く裏付けるものである。数量によって判断が左右されるのだとすれば、「権利」の成否を判断する権限を与えられた者としての自覚に著しく欠ける。
  2. 「宣誓陳述書」を信用できないとしているようであるが、その根拠は何ら示されていない。一企業が頒布する商品カタログの場合、その数量は、第一次的には、頒布者自らの陳述に依らざるを得ない。「宣誓陳述書」は、A社のCFOによる、公証も受けた書面である。ちなみに、米国は、「嘘をつく」ことに対し極めて非寛容な社会であり、刑法上も、社会的にも、極めて厳しい制裁を受けることになる。法の運用に関わる者は、当然有しているべき知識である。審判では、職権証拠調べも可能である(商標法56条1項、特許法150条1項)。裏付けとなる資料が不可欠と判断したのであれば、求釈明の上、その提示を求めるべきであって、そのようなプロセスも経ず、何らの根拠も示すことなく、証拠を事実上不採用とするのは、職務の怠慢である。

 

(不正の目的について)

 

  1. 審査基準の形式的適用により、審決は事実を見誤っている。
    平成8年の法改正のための答申において、同要件は、「不正の利益を得ようとする目的(不正競争の目的を含む)に止まらず、営業上の競争関係にはないが他人に損害(財産上の損害、信用の失墜、その他の有形無形の損害)を加える目的を含めた『公正な取引秩序に違反し信義則に違反する目的』をいう」とされていた。そして、条文上の「その他の不正の目的」には、取引上の信義則に反するような目的を広く含むものと解釈されている。その例として、不正の目的が必ずしも客観的外部的事情として表れない、様々な非典型事例が含まれる。「不正の目的」要件は、立証困難な、内心の主観的意思に関わる典型的な要件であるから、典型事例を想定した「審査基準」を一律に形式的に適用することによっては、妥当な結論を導くことはできない。審査基準も、「『不正の目的』の認定にあたっては、例えば、以下の(イ)ないし(ヘ)に示すような資料が存する場合には、当該資料を充分勘案するものとする。」としているに過ぎない。
    また、商標登録出願を、時間と費用をかけて現に行い、障害となった不正登録商標の無効を主張して審判まで請求した者に対し、「我が国に進出する具体的計画(例えば、我が国への輸出、国内での販売等)を有している事実を示す資料」が提出されていないとは、形式主義も甚だしい。
  2. 本件で問題となっているのは不正登録2であって、証拠によれば、その出願時点で、B社が本件米国商標の存在を知っていたことについては、合理的疑いを差し挟む余地はない。「不使用取消しされた不正登録1は、平成10年に採択されたものである」との事情は、不正登録2の19号該当性を検討するについて無関係なものである。
  3. 「不正の目的」は典型的な主観的要件であるから、一定の事情からこれについては一応の推定が働くものとし、立証の困難を救済する等の配慮が不可欠である。審査基準も、「その周知な商標が造語よりなるものであるか、若しくは、構成上顕著な特徴を有するものである」場合には、「他人の周知な商標を不正の目的をもって使用するものと推認して取り扱うものとする」としている。
    外国語に対する苦手意識の根強い我が国において、最も馴染みのある外国語は英語であり、仏語や独語に馴染みのある者は、極めて少数である。そのような状況の中で、「Anthropology」が「人類学」を意味し、さらには、仏語や独語では、これを「Anthropologie」と綴るなどということを知っている者は、ごく僅か であるのが現実である。よって、本件商標は、「造語」とまではいえないとしても、少なくとも「構成上顕著な特徴を有するもの」であって、「出願人により自由に取捨選択され得る言葉」とは到底いい得ない。しかるに、被請求人が登録したのは、英語の正しい綴りでも、大文字と小文字からなるものでもなく、まさに本件米国商標と同一の「ANTHROPOLOGIE」である。
    同じ服飾業界に属し、米国内で調査活動等を行っていた者によって、大文字のみの表記とする点、そして、何より、誤った綴りの表記までが完全に一致する「同一」商標が、「偶然に」採用されたとは、到底考えられない。
    過去の判例も、出願の当時、当該周知商標の存在を知っていたものと認められ、且つ、同商標の正当な権利者の承諾を得ることなく無断で出願した場合には、「不正の目的」の具体的内容を特定することなく、「不正の目的」があったと認定している。
  4. 「9区分という多数の区分及び商品を指定商品として出願したものであり」、必要以上に「広い分野について商品を指定して出願しているものであるから」こそ、原告の日本進出を阻止する等、公正な取引秩序に違反し信義則に違反する「不正の目的」が推認されるというべきである。
  5. 登録が正当なものであったならば、なぜ敵前逃亡する必要があるのか。答弁もせず権利放棄したことは、無効審判請求書に記載された請求の理由が事実であることを自認し、事実上「請求の認諾」をしたことを意味するのであって、「不正の目的」の存在を、尚一層強く推認させる事情というべきである。
    「事実」は、本質的に、見る者それぞれの視点から、如何ようにも解釈、構成し得るのであり、であるからこそ、判断権限を与えられた者は、その視点が真に中立公平な第三者のものであるかを常に疑い、そうあるように努めるべき重大な責務を負っている。まして、法の世界は、論理が支配するものでなければならない。このような観点からしても、審決は、自由心証主義の逸脱という違法性を有するものである。

 

裁判で答弁をしなければ、擬制自白により請求認容となります。

 
 が、B社は、形ばかりの「答弁書」を、一応提出しました。
 到底、勝ち目はないと考えたのか、代理人は付いていませんでしたが、形ばかりの「答弁書」を出したことからは、“専門家”のアドバイスを受けていることが容易に推測できました。
 これにより、知財高裁は、「請求の認諾」とすることはできず、審理を行わなければならなくなるからです。
 そこで、知財高裁は、B社に対し、不正登録1・2の出願理由と経緯、これらの出願時点において本件米国商標についてどのような認識を有していたか、海外ブランドの調査方法・対象地域等の業務内容について、親切にも、釈明命令を発しました。
 しかし、B社は、無論、何ら応答することはなく、法廷にも不出頭。第2回期日で結審となりました。
 
 そして、判決は・・・
 

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