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ローマの休日

ローマの休日

2014,3,20

いずれも「~しなければならない」を意味するmust と have to の使い分けについては、前者は内部的理由、後者は外部的理由による、と一応、説明されるが、実際には、もう少し込み入っているようである。

映画「ローマの休日」の終わりの方で、主人公のアン王女(オードリー・ヘップバーン)とジョー(グレゴリー・ペック)が、一連のセリフの中で、mustとhave toを使っているのが勉強になる。

① 素晴らしい休日を過ごした後、アン王女が、ジョーに、自慢の手料理をつくってあげたいというような意味のことをいうのに対して、ジョーが ”Well, looks like I’ll have to move and get myself a place with a kitchen.” と言う。このhave to move は、「外部的理由」などというよりも、王女様に料理をつくって貰うなんてあり得ない!という気持ちの表れのように思われる。

② そして、ついに、別れの言葉 “I…have to go now.” が出て来る。これは、まさに、「行きたくないんだけど・・・」の have to go である。王女の気持ちが素直に表れている。それから、抱擁シーンがあった後、

③ 王女は、”I must go and get dressed.” と言う。シナリオには、Slowly, she regains control of her emotions. とある。王女は、公的存在としての意識が戻っているので、自分に命令するような気持ちで、”I must go and get dressed.”と言っているのであろう。

④ ところが、ジョーに車で送られて、いよいよ別れが現実になって来ると、再び、“I have to leave you now.” と言う。「行きたくはない」という真の気持ちを分かってほしいのであろう。

このような場面では、have toには、相手に、自分の真意を分かってほしいという意味合いがありそうである。

2014,4,7付記

ジョーは、一旦別れた王女と、偶然を装って、スペイン階段で再会する。そして、王女が、かねてからしたいと思っていたことを、一緒にやろうと提案する。

ここで、王女はジョーに、“But don’t you have to work?”と尋ねる。

公務のスケジュールで追いまくられ、ストレスでノイローゼ気味になっている王女にとって、仕事とは、他人から強制され、嫌々ながらするものであるから、「だって、あなたには仕事があるでしょう?」と聞く場面で、当然のこととして、”have to” が出て来たのであろう。

2014,4,14付記

丁度30年前の世界的大ヒット曲、Stevie Wonder の“I just called to say I love you.” を聴いていたら、その中に、これぞ”must”の使い方というのがあった。その歌詞は、

“Made up of these three words that I must say to you I just called to say I love you ~ And I mean it from the bottom of my heart”

ここでの”must”は、まさに内部的なもので、後に続く”from the bottom of my heart”も、このことを示している。ここで、have toは、あり得ない。

2014,4,18付記

I love you. は、must ではなく、have to で言うこともある、ということを窺わせる歌に出会った。1966年にDusty Springfieldによってリリースされた”You don’ t have to say you love me”というタイトルの歌である(後に、Elvis Presleyによってカバーされ、さらにヒットした。)。この一文は歌詞の中にも出てきて、“You don’t have to say you love me Just be close at hand~”と続く。

アメリカの夫婦の夫は、毎日のように、妻に、“I love you.”を言わなければならない、ということを聞いた記憶がある。これは、一種の義務として言わされているのであるから、まさに、”have to” なのであろう。上辺だけのことであるから、”from the bottom of my heart”の対極である。

2014,4,23付記

Audrey Hepburn と Gary Cooper のLove in the Afternoon の中に、面白い場面があった。世界を股にかけたプレイボーイのフラナガン氏の危ないところを助けたアリアンヌに、フラナガン氏が、「もっと一緒に居たい。」と迫ったのに対し、アリアンヌは、きっぱりと、I must go. と言って断る。

「ローマの休日」で恋人関係になったジョーには、I have to go. であったのに、嫌なフラナガン氏には I must go. である。一緒に居たいのか、居たくないのか、これで分かる。

娘のアリアンヌが、父親に I love you very much. と言うと、父親は I love you more. と応える。父と娘の間で I love you. が交わされるのには、カルチャー・ショックを感じた。

2014,5,21付記

「ローマの休日」を英会話の教材とするサイトは沢山あり、「映画『ローマの休日』:安子」もその一つである。それによると、最後の方の別れの場面の台詞は次のようである。

Ann: Stop at the next corner, please.
Joe: OK
Joe: Here?
Ann: Yes. I have to leave you now. I’m going to that corner there and turn. You must stay in the car and drive away. Please not to watch me go beyond the corner. Just drive away and leave me, as I leave you.

問題は、王女の台詞にある must である。Joe と知り合った始めの方で、You may sit down. とか You have my permission to withdraw. とか「王女様言葉」が自然に出てきて、おかしさが感じられる。

しかし、最後の別れの場面で、このように must stayという強い命令口調になるのは、如何にも不自然である。ほんとに、王女がこんな台詞を言っているのだろうか?と疑問に感じて、確認したところ、問題の個所は、実際には、You stay in the car and drive away. と、動詞の原形が使われていた。これなら、押し付けがましい命令形という感じがせず、穏やかな感じになる。

2015,4,3付記

映画の始めの方で、王女の台詞の中に、must が2回出て来ている。午後一時半まで寝ていたことを知って、慌ててI must get dressed and go! という場面と、着替えてテラスからローマの街を眺めた後、出て来たJoe にI must go. と別れを告げる場面である。

Joeとはまだ会ったばかりであるし、早く公務に戻らなければ、と心が命じているためである。

Love in the Afternoon で、会ったばかりのフラナガン氏に、I must go. と言ったのと似ている。

2015,7,10付記

「審査請求(審判請求)しなければならない。」を英語で言うときは、must を使って来たが、良く考えると、これは法律が要求していることで心が命じている訳ではないので、have to を使うべきではないか?と疑問を抱いた。しかし、こういう文脈で、have to は見た記憶がない。

結局、こういう場合は、need to を使えばよいことに気が付いた。これなら、neutral で、理由の如何は問題にならない。

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