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「失敗の本質」(中公文庫)

「失敗の本質」(中公文庫)

この本は、約6年前、大阪に出張中に、或る本屋で出会ったものでしたが、それ以来、あの戦争について考えるきっかけとなったものです。興味の尽きることがなく、何度も読み返しています。

この本は、ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、そして沖縄戦を題材に、日本軍の敗戦の原因を、主として米軍との対比において分析したものですが、今も本質的に変わってはいない日本人の行動様式について考えさせられる、大いなる刺激に満ちた本です。

これらの作戦の中で、最も興味あるのが「ミッドウェー海戦」です。何故なら、「ミッドウェー海戦」こそは、質量ともに、日本軍のほうが米軍を上回っており、従って、勝って当然であったにも拘らず、惨敗を喫してしまったという、何とも不思議な海戦であるからです。

この海戦における山本五十六の指揮振り、惨敗の事実の隠蔽振り、それに真珠湾奇襲における攻撃の不徹底さ等を見ると、山本五十六が「英雄」として美化されているのは全くの「虚像」であり、実は、彼ほどの愚将はなく、彼こそあの惨めな敗戦の最大の責任者ではないのかという疑問が湧いて来ます。

真珠湾奇襲の戦果は見かけ倒しであり、山本五十六は、真珠湾攻撃によって「米国海軍と米国民をして救うべからざる程度にその士気を阻喪せしむ」ことを最大の目的にしたのに、実際には、「米国海軍と米国民をして日本海軍と日本国民が色を失う程度にその士気を高揚せしむ」ことにしてしまった(「海軍人事の失敗の研究」より)のです。

司馬遼太郎氏の「戦雲の夢」には、「50年の人生に、人は、たった一瞬だけ、身を裂くほどの思いをもって決断すべき日がある。」というところがあります。真珠湾攻撃とミッドウェー海戦の場合、山本五十六は、自ら先頭に立って指揮するか、或いは、「南雲忠一」ではなく「山口多聞」を指揮官に抜擢するという決断をすべきであったのに、その決断を見送ってしまったのです。そして、ミッドウェーで惨敗を喫し、悶々の日々を送っているうちに、米軍機に撃墜死させられるという、無念の最期を遂げてしまったのだと思います。

(2015・10・21付記)
このコラムを発表してから既に13年がたった。終戦70年目に再読してみたが、全く古さを感じない。この本は、「日本軍の組織論的研究」として、依然としてユニークである。

興味は、また、ミッドウェー海戦に向いてしまったが、「失敗に学ぶ軍隊」と「失敗に学ばない軍隊」の際立った違いを改めて教えられた。
ミッドウェー海戦の約一カ月前に起こった珊瑚海海戦は、史上初の空母同士の海戦であった。ここで、空母一隻沈没、一隻大破の「失敗」をしたアメリカ海軍は、空母の脆弱さを知り、その対策を研究した。その結果、複数の空母は分散して配置し、全体像を敵に把握されにくくするとともに、各空母を警戒艦群で囲み、敵航空機の接近を阻む輪型陣を構築することとした。そして、これらの対策は、見事に効果を奏した。
一方の日本海軍は珊瑚海海戦から何も学ばず、漫然と、無防備に近い4隻の空母を一まとめに、ミッドウェーに出撃させてしまった。
これでは、日本の空母は、「どうぞ沈めて下さい。」と言わんばかりで、負けて当然という気がしてくる。失敗に直ぐ学び、次の戦闘でその成果を確認し、進化し続ける軍隊と、失敗に学ばない軍隊とでは、これほど違って来る。

次に、3年前に、この続編である「失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇」が出た。この本にも、大いに教えられた。

最も重要と感じたところは、あの戦争をしていた日本国は、戦争という重大事を一枚岩として遂行できる、近代国家としての体をなしていなかったということである。
明治憲法のもと、「統帥権独立」を錦の御旗として、軍事が政治を従属させ、軍部独裁の国になっていた。そして、軍部も、陸軍と海軍が相互不信で反目しあい、これらを統合する機構もなかった。このような有様では、戦争を続けること自体が目的と化し、戦争を止めさせることができるのは天皇だけになってしまった。
一方、第一次世界大戦を経験した主要国では、政治が軍事の上にあり、軍事は、政治目的を達成するための一手段である、という考え方が当たり前になっていた。しかし、この国では、このことは新憲法で初めて実現された。

ところで、この本では、山口多聞が、空母飛龍と運命をともにしたことを賛美しているが、これは、おかしい。
彼ほどの指揮官を育て上げるためにどれだけの金と時間がかかるかを考えるべきである。戦争は、最早、美学ではなく、国家総力戦である。「潔く、ここで死にます。」では困るのである。
彼こそ、とことん生き抜いて、山本・南雲・草鹿を退役させ、小沢・角田とともに、日本海軍を再建し、アメリカ海軍と渡り合ってほしかった。

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