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「ボールスプライン軸受事件」高裁(松野)判決批判

「ボールスプライン軸受事件」高裁(松野)判決批判

 ボールスプライン事件の東京高裁判決は、『「ボールスプライン軸受事件」の真実』で紹介したように、服部栄久氏をして、「技術的判断をすること自体に能力上の問題があるのではないだろうか。・・・公正を期すべき裁判において、こんな理由付けがされ得るのかと背筋が寒くなるような思いがした。」といわしめた判決でした。

 してみれば、最高裁こそ、この判決の誤りを厳しく指摘・批判して、同じ過ちが繰り返されないようにすべき責務があったのに、実際には、全くの知らんぷりでした。このままでは、同じ過ちが繰り返される恐れがありますから、ここに、誰にでもわかるように、この判決のおかしさを明らかにしてみることにしましょう。

 

第1点 或るものが或るものに接触すれば落下防止?

 この判決には、何ともおかしな理屈が書かれています。それは、「或るものが或るものに接触すれば落下防止になる。」という理屈です。
 このホームページをご覧の方は、恐らく「マウス」を操作しながら、お読みになっていることでしょう。初期のマウスには、ボールがはいっており、ボールをマウスパッドに接触させてボールを動かします。マウスをマウスパッドから持ち上げても、ボールは、マウスから落ちません。マウスにはボールの直径より小さい穴があいており、ボールはそこからのぞいているのですから、ボールはマウスから落ちないように設計されているのです。しかし、この高裁判決の理屈では、ボールはマウスパッドに接触するのだから、マウスパッドはボールがマウスから落下しないことに寄与している、ということになるのです。これが「うそ」であることは、余りにも明白です。
 被告製品のボールスプラインでは、外筒の円筒状部分において、マウスとマウスパッドの関係と同じことが起きていると言っていいのです。原告は、被告製品において、ボールは円筒状部分に接しているとの実験結果を提出しました。
 松野判決は、これを採用し、被告製品において、ボールは円筒状部分に接しているのだから、円筒状部分はボールの落下防止に寄与していると認定したのです。
 被告は、検証物として、被告製品において、円筒状部分を切除したものを提出し、被告製品の場合は、ボールは保持器とリターンキャップで保持されているので外筒の円筒状部分を切除してもボールは落下しない(一方、特許発明では、円周方向溝がないと、ボールを保持するものが全くないのでボールは落下し、ボールスプラインとしては全く機能しない。)ことを十分証明した積もりでいたのですが、松野判決は、円筒状部分を切除したものは現実の被告製品とは異なるといい、採用しませんでした。
 何が何でも権利侵害を言いたいため、被告の言い分については「見ざる、聞かざる」の状態になっています。
 ボールスプラインにおいては、ボールがシャフトの凸部に接触することによってシャフトと外筒との間のトルクの伝達が行なわれるようになっており、シャフトを抜いてもボールが落下しないように保持器が具えられているのです。松野判決の論理に従うと、ボールはシャフトの凸部に接触するのだから、シャフトもボールの落下防止に寄与していることになり、それでは保持器はいらないことになりますから、まさに、「支離滅裂」です。

第2点 断面半円状の溝の間の突堤は技術的意義がない?

被告製品では、一対の断面半円状の溝が特許発明の断面U字状の溝に対応しています。
一対の断面半円状の溝の間には、この事件では「突堤」と名付けられた部分が残ります。そして、負荷ボール溝の間の突堤は保持器と協働してボールを保持する機能を果たし、無負荷ボール溝の間の突堤は保持器を固定する機能を果たしています。
これらが技術的に有意義であることは余りにも明らかなことですが、松野判決は、被告製品の「突堤」には技術的意義がないと決めつけています。これまた、典型的な「見ざる、聞かざる」です。


なお、この事件について某大学教授が書いた判例評論には、この争点について、「本判決の判旨第1点については格別の問題はないであろう。・・・異なる構成が独自の技術的意義と作用効果を有しないときは、これを捨象して発明の同一性を判断してよいということであって、妥当かつ当然の判旨と思われる。」とあります。

この大学の先生に、「ボールスプラインて何ですか?」と尋ねても、恐らく、ご存じでないのではないかと思われます。
「ボールスプライン」とは何であり、「発明の解決課題は何なのか」が分かっていれば、こんな判例評論を書けるはずがありません。

第3点 断面半円状の溝は断面U字状の溝より合理的というのは証拠がない?

 外筒の内面にある溝は、溝のない状態の外筒の素材から、ブローチという工具を用いて材料を削り取ることによって形成されるものです。断面半円状の溝の間には、「突堤」が削られないで残ります。
被告製品は、「突堤」を削らないで残すのだから、「突堤」を削って断面U字状にする特許発明より、材料の無駄が少なく、加工のエネルギーも少なくて済み合理的であるとの被告の主張に対して、松野判決は、この主張には証拠がないとはねつけました。

 これは、「50は100より小さい。」というがその証拠がない、というようなもので、唖然とします。
機械分野の特許庁審査官なら「ツーカー」で分かることに、裁判官は「証拠」を要求するのだ、ということが分かります。(しかし、次の第4点では、原告の主張なら意味不明のことでも「容易に推認できる」といっているので、認定の不公平さが際立ちます。)

第4点 「ボールがシャフトと干渉する」?

 特許発明では、特許請求の範囲で、無負荷ボール溝が円周方向溝と「同一深さ」とされていることに関して、松野判決では、「・・・これを負荷ボール溝の深さと同一にした場合には、ボールが方向変換の出入口においてシャフトと干渉するであろうことは容易に推認できる反面・・・」とあります。

 しかし、ボールスプラインの技術分野に詳しい技術者に尋ねても、この文章が何を意味しているのか分からないといいます。
この文章は、原告が或る準備書面に書いたことを判決でそのまま借用したものですが、裁判官は、その意味内容を吟味もせずに、判決理由に取り入れてしまったのでしょう。なまじ、容易に推認できるなんて言ったために、おかしさが増します。

 

 以上は、松野判決のおかしい点の代表的な部分です。まだまだありますが、こまかくなるので止めておきます。詳しくは、「上告理由書」を参照下さい。


 

 普通、「判決」といえば、原告と被告双方の言い分を十分に聞いて、公平な立場で書かれるはずのものですが、松野判決の特徴は、裁判官が原告と一体化してしまっているということです。
 松野判決に対する当業界の反応は、当初は、「画期的判決」とか、「裁判官の勇気に拍手を送りたい。」とかの好意的なものが殆どでした。

 その後、批判的なものも出ては来ましたが、管見の限り、服部氏(弁護士でも弁理士でもない。)と同じ位に厳しく、かつ具体的に技術的問題点に切り込んで批判した人は、弁護士・弁理士の中では皆無でした。このことは、当業界における「批判精神」の乏しさを示すように思われてなりません。

無料貸出について

 原告・被告双方の製品、検証物、図解した説明資料等は、まだ保存しています。

 これらの資料を十分に見、双方の説明を十分に聞いたはずの裁判官でさえ、このような判決を書くのですから、これらを見もせずに、問題点が十分理解できるとは思われません。
百聞は一見に如かずと言います。この事件をより良く理解するため、資料貸出のご希望があれば、喜んでお貸しします。

 

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