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11.自動詞と他動詞。

11.自動詞と他動詞。

 日本語の特許明細書で、「樹脂を基材に含浸」のような表現には、よく遭遇します。しかし、「~を」という目的語を伴っているからには、この場合の動詞は他動詞でなければならないはずなのに、「含浸し」は自動詞ですから、これは日本語としても変な文章と言わざるを得ません。正しくは、「樹脂を基材に含浸させ」であるはずです。

 

 日本人には、自動詞と他動詞を峻別しないくせがあるようです。その理由は?と考えると、日本人には、発明の対象物に働きかけているのは人間だけで、発明の対象物は受動的に働きかけられているだけなのである、という発想がないためではないかと思われます。白黒二分説に立つ白人は、意志のある人間(主体)と意志のない物(客体)を峻別する考え方をしているはずです。

 

 このように、日本人には、自動詞と他動詞を峻別しない傾向があることが、「立ち上げる」のような、自動詞と他動詞を結合した、気持ちの悪い用例に対してもさほど抵抗を感じないことにつながっているのでしょう。最近では、NHKのアナウンサーまでが「立ち上げる」を使うのにはうんざりです。

 

(2006・9・28付記)
 電車の中で、或る頭痛薬の広告が目にとまりました。そこには、「眠くなる成分が入っていない頭痛薬」とあり、「眠くなる成分」という表現は、日本人には、何の抵抗もないのですが、良く考えると、これはおかしな表現です。何故なら、「眠くなる」のは「成分」ではなく、実は、薬を飲む「人」であるからです。日頃活用しているパソコンの翻訳ソフトを使うと、機械は、実に、素直に、ingredient が become sleepy と訳します。パソコンは機械に過ぎな いので、日本人には、自動詞と他動詞を峻別しないくせがあり、この場合、「眠くなる」とは、正しくは、「(人を)眠くさせる」という意味であると、解釈又は訂正しなければならないことまでは考えが及びません。パソコンに翻訳機能を果たさせるためには、事前に、日本語の見直しが必要であることを再度考えさせられました。)

 

(2015・3・11付記)
 特許法101条の「間接侵害」についての条文を調べていたら、「用いる物」、「生産した物」といった、他動詞の能動態と目的語を結合した表現に遭遇した。これは、「眠くなる成分」という言い方と同じ問題を含んでいる。改めて、我が国では、法律の条文にも、このような表現が用いられているという事実を思い知らされる。これらの表現は、実は、「用いられる物」、「生産された物」を意味している。

 

 さらに調べてみたら、69条の「特許権の効力が及ばない範囲」にも、同様に、「使用する機械」、「調合する医薬」等がありながら、一部では、「製造されるべき医薬」のように、本来の受動態で表現している箇所もあり、能動態と受動態が混在している。そして、何故、ここだけ、「製造すべき医薬」と言わなかったのだろう?という疑問が残る。

 

 国内で、日本人同士がコミュニケートする分には何の問題もないが、対外国となると、そうは行かないということを自覚する必要がある。

 

(2015・3・18付記)
 養老先生が、日本人は、時々、自と他の区別さえ怪しくなる、と言っている。次の文章が、その証拠である。

 

 ① 関西弁の「ジブン、何しとんねん!」
 ② 「テメ―、待ちやがれ!」
 ③ 「オノレー、許さん!」
 ④ 「ぼくちゃん、何歳?」

 

 主語を表わすのに、「は」と「が」があったり、日本語とは、他に類のない言語のようである。

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