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お粗末明細書part8:特許第2939736号

お粗末明細書part8:特許第2939736号

摩擦締結具

 

機械の分野の発明で、ついに、発明が実施不能という明細書に遭遇した!

 

本題に入る前に、まず、発明の名称について異を唱えたい。
本特許に係る発明は、「継ぎ手」に関するものであり、この種の継ぎ手の特徴を端的に、そして、正確に説明しているものとして、国際特許分類のF16D1/09がある。すなわち、国際特許分類F16D1/09には、「少なくとも一組のテーパ面に作用する軸方向荷重により半径方向に締め付けられるもの」と、極めて適切に説明されている。問題の本特許では、発明の名称は「摩擦締結具」である。この名称から察すれば、「摩擦」で何かを「締結」しているのだそうだ。実際は、「テーパ面に作用する軸方向荷重」によって面圧を発生させ、それにより、軸と回転体を「締結」しているのであり、「摩擦」は、軸から回転体へのトルク伝達の際に発生する現象である。何とも不適切な発明の名称をつけたものである。

 

次に、本題に入る。
本特許は、請求項1に、「・・・内輪と、・・・外輪と、・・・サイドリングと、・・・締付け手段とを具備する摩擦締結具において、締付け手段が非締付け状態にあるときの・・・、前記遊嵌状態にある・・・」とあるように、物の発明を、或る状態における構成で特定しようとしているのであるが、これが致命的である。何故ならば、「前記遊嵌状態にあるサイドリングの外周面と・・・外輪の内周面との間隙は、0.005~0.25mm」としているものの、遊嵌する二つの部材がテーパ面を有している場合を全く考えていないと言わざるを得ない。組立てられた締結具の、遊嵌状態にあるテーパ面を有する二つの部材の間隙をどのように設定しろというのか。

 

また、締結具単体で考えた場合、サイドリングと外輪との間の全てに、間隙が0.005~0.25mmあるという状態は、外輪が宙に浮いているということにほかならないが、明細書を書く人も出願を審査する人も、重力が作用する地球上では、こんなことは自然法則に反するということに気が付かなかったのであろうか?

 

現物を目の当たりにすればすぐに分かることであるが、締付け手段が非締付け状態にあるときに、テーパ面を有する二つの部材が「遊嵌」しているのであるから、二つの部材は、当然、周方向にも軸方向にも相互に移動可能である。また、二つの部材の位置関係によっては、テーパ面が必ずしも平行でない場合も当然考えられるし、二つの部材が一部では接していることも考えられる。そもそも、テーパ角が同一でないこともあり得る。これでは、一体、どこの間隙を特定の数値に設定しろというのか、全く分からない。

 

また、「0.005~0.25mm」といわれても、「0.005~0.25mm」の内の或る一つの値に設定するというのか、それとも、「0.005~0.25mm」の範囲内に収めるというのか、それすら分からない。

 

さらに、明細書を見てみても、実施形態の説明において、当該間隙をどのように設定したかについては一切触れられていない。ヒントとなり得そうな記載といえば、「間隙」は「半径差」ということだけである。しかし、どこの「半径差」を、どのようにして計ったのであろうか。謎は深まるばかりである。これでは、当業者も、到底、実施できるはずがない。

 

おまけに、この特許は、中間段階の補正により、「外輪の呼び径」が「50mm」という特定の大きさのものに限定されている。何と、或る特定の大きさの実施形態のみが特許なのである。こんな特許は、見たことがない。今でも年金を払って維持されていることが理解できない。

 

このような不可思議な特許が「産業の発達に寄与すること」は、あり得ない。権利行使できない、ペーパーパテントの最たるものである。

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