お電話でのお問い合わせ

03-6268-8121

英語の委任状・宣誓書に漢字OK?

 これは、最近、或る会社の特許担当者からきかれた質問です。実は、数年前、アメリカ特許出願用の書類に、発明者が漢字で署名して来たことがあり、ローマ字でサインすればいいのに!こんなことで問題を起こさなければいいが~と懸念したことが実際あったので、同じ疑問を感じる人がいるものだと再認識した次第です。

 

 しかし、漢字の署名に対しては、米国特許商標局から何の異議も来ませんでした。そもそも、「署名」とは、署名する人の同一性を確認するための標識ですから、その人がこれが自分の署名だというのなら、そのとおり受け入れるほかないのです。

 

 また、全世界の人々が英語のアルファベットを知っているはずと前提するのは、白人中心の「傲慢」にすぎません。そんなことがあり得ないことは、少し考えればわかることです。堂々と、漢字で署名すればよいのです。

 

 ただ、漢字で署名したら、白人は、読むことができませんから、その下に、読み方をローマ字で書き添えてやるのが思いやりというものでしょう。

 

 なお、日本人は、名前をローマ字表記するとき、欧米風に姓名を逆さまにしますが、これは、開国以来の、日本人特有の、欧米に対する卑屈さの表れと思われ、断固、順序を変えないチャイニーズ、コリアンと対照的です。

 

 「愛読書・お薦めの本」で紹介した高島俊男氏の「お言葉ですが・・・」の中でもこの問題が取り上げられており、「なんで日本人が日本人の名前を言うのに、わざわざ西洋人のまねをしなければならぬのか。そんなに西洋人がありがたいか。・・・」「~日本人の名前をトミイチ・ムラヤマのごとくさかさまに言うのは、なにも西洋人が押しつけたのではなく、明治はじめごろの日本人がみずから進んでやり出したことなのだそうだ。さらに、こんなけったいなことをするのは、アジア諸国のなかでも日本人だけなのだそうである。」とあります。

 

 「脱亜入欧」というスローガンにも見られるように、日本人の心底には、「西洋人になりたい(或いは、西洋人に仲間として認められたい)。」という切ない願望があり、姓名を逆に言うのも、その願望の現れではないのか?という気がします。

 

 ところで、外国人が日本へ特許出願するときは、この種の書類は常に英語で作成され、特許庁へ提出されるとき日本語の翻訳を伴うという手順になるのに、日本人が外国に特許出願するときは、その逆にはならず、英語で書類を作成しようとします。

 

 外交関係では「相互主義」が当たり前なのに、何故か、日本人は、当然の如く、譲歩します。日本人とは、何とお人好しの国民かと、嘆息するばかりです。さらに、一例を挙げれば、EPOは、日本からの優先権主張に対して、いまだに優先権証明書の全文英訳を要求します。ならば、日本特許庁も、同じことを要求すべきなのです!

 

 鈴木孝夫氏は、このように、日本人が無意識のうちに欧米人に迎合し、自らを彼らの基準に合わせようとする傾向を、いみじくも、「自己植民地化」と名付けました。日本人は、崇拝する心の宗主国に対して、無意識のうちに、自ら、その植民地人であるかのように、ふるまってしまうのです。

 

 こんなことはいい加減に止めようではないか、と言いたくなります。

 

 (2005・5・27付記:近刊「戦艦ミズーリに突入した零戦」によれば、昭和20年9月2日、ミズーリ号艦上で、降伏文書に署名するとき、重光全権は、ローマ字か漢字か迷っていたところ、付き添っていた加瀬氏が「無論、漢字です。」と進言したということです。外交経験豊富な重光全権が迷い、当時はまだ若い加瀬氏のほうが「無論、漢字です。」と進言したというのが面白いところです。)

TOPに戻る